命名「びんごの姫」
当社は、福山大学が開発した、シロギスの養殖技術を活用し、同大学指導のもと、卵から成魚までを高効率で育成する「完全養殖」の研究を進め、その養殖技術をもとに当社の沖縄県内の施設において、昨年4月より本格的に養殖をスタートしました。そしてこの度、シロギスの「完全養殖」に成功し、天然魚獲期外のオフシーズンである11月~2月の安定供給が可能になったことから、『びんごの姫』ブランドとして本格出荷を予定しています。
※完全養殖とは、人工ふ化した仔魚を親魚まで育て、その親魚から採卵し、人工ふ化させて次の世代を生み出していく技術。 これにより天然資源に頼らず、すべてのプロセスを人工的に育てることが可能になります。
シロギスは、北海道・沖縄を除くほぼ全国で漁獲され、全体的にパールピンクや虹色に輝いて見える魚体の美しさから、“海の女王”と呼ばれています。また、食材としての価値も高く、透明感のある白身で血合いは薄く、内臓も含めて臭みがないことから、新鮮なものは刺身や昆布締めでおいしくいただけます。 また熱を通しても身が締まらないことから、ふっくらとした天ぷらやフライは定番の料理で、簡単に塩焼きしてもおいしい、苦手の人が少ない人気の魚です。
産卵のために浅瀬に集まる春から夏にかけての水揚げが多く、それ以外の時期は極端に漁獲量が少なくなることから、品薄のシーズンオフでは高値で流通する高級魚として知られています。近年は漁獲量も10分の1になるなど激減し、市場での不足を補うため、近縁種が代替として輸入されていますが、シロギスの上品な甘さやくせのない淡白な味わいには及ばないという声もあります。
一年中味わっていただきたい
これまで養殖の対象になっていなかったシロギスの産卵時期を制御することで、シーズンオフに高品質なシロギスを安定供給させることができれば、シロギスのおいしさを一年中味わっていただくことが可能になると考え、この度福山大学と共同で、「養殖シロギスプロジェクト」を立ち上げました。養殖シロギスの新ブランド『びんごの姫』は、天然魚より傷がなく鮮度長持ちする特徴もあります。
伊平屋島
沖縄本島北部本部半島から北へ41.1キロに位置する沖縄県最北端の有人島です。エメラルドグリーンの海や200メートル級の丘陵地帯など、手つかずの美しい自然が広がっています。
福山大学では、2015年からシロギスの生態や特徴を研究し、産卵期のコントロールや高成長・安定的な飼育技術の開発をおこなってきました。クラハシは2018年から実証化に参画し、当社が持つ沖縄県伊平屋島の陸上養殖施設にて、福山大学で生まれた稚魚を育て、成長した親魚が産んだ卵を孵化させて飼育する「完全養殖」の取り組みを進めてきました。
温かい環境で効率育成
伊平屋島の施設では、冬場の水温も瀬戸内海と比較しても非常に高く、短期間に大きく飼育できることで効率的な養殖が可能です。しかし当初は、多くの仔魚が全滅してしまう不具合なども経験しました。さらに、コストと価格に見合った任意のタイミングで出荷できる体制が必要とされるなど、相手が生き物だけに、事業として養殖に取り組むにはいくつもの困難がありました。特に、現地の養殖担当は、毎日オンラインで福山大学の指導を受けながら、必死に命と向き合ってきました。昨年4月には、養殖場に隣接する形で水温管理のできる沖縄種苗研究センターを創設し、親魚の採卵を開始。現在は伊平屋島漁協が所有する50トンの陸上養殖水槽が24基を活用した養殖を行なっています。将来的には養殖のシロギスの生産量を50万尾まで増やし、国内のみならず、海外への輸出も視野に入れて事業展開していく予定です。
漁獲量低下と向き合う
SDGsが取り上げられるより以前から、乱獲や温暖化により瀬戸内の漁獲量が激減していることを受け、「獲る漁業から育てる漁業へ」という思いを実現する形で、「備蓄事業」や「養殖」に 着手してきました。水産と冷凍食品を中心にスーパーへの直接販売、鮮魚の加工提案、魚の養殖をおこなうなど“開発する総合卸売商社”として事業展開を進めています。
昨今減少傾向にある“魚食”の啓発として、生物多様性の観点では、天然資源を絶やさない努力を前提とした上で、養殖飽和魚種ではない、前例のない新たな魚種の養殖が重要な鍵になると考えています。減少を続ける天然資源を鑑み、養殖魚は天然魚が増えるための調整魚と銘打ち、引き続き福山大学の指導のもと、養殖事業に尽力していきます。
今後も、シロギスの完全養殖による安定供給をめざす「養殖シロギスプロジェクト」を通じて、未来の海のために持続可能な漁場への取り組みに貢献していきたいと考えています。